『魔法少女まどか☆マギカ』考察 ~探偵のいないミステリーの先~ 暁美ほむらの物語 その5 まどかのいない世界で 再掲載 *ネタバレ注意
*ネタバレ注意
ほむらはまどかと新しい約束をして、まどかのいない世界に放り出された、
そしてそれは同時に、まどかとの最初の約束を果たすことの失敗であり、
自分で自分を追い込んで戦い続けたことからの開放でもあるだろう。
その新しい世界でもほむらは魔法少女を続けた。翼を広げ、まどかと同じ武器を取り、まどかから譲り受けたリボンを付け。
まどかと同じ武器を使い、もらったリボンを付けているのは、まどかのことを決して忘れない決意の現れだろう。
一方、白い翼が使えるようになったことは、まどかのいなくなった世界で、ほむらに自分の人生を生きていく自由があるという表現だろう。
「悲しみと憎しみばかりを繰り返す、救いようのない世界だけど、だとしてもここは、かつてあの子が守ろうとした場所なの、それを憶えて、決して忘れたりはしない、だから私は、戦い続ける。」
このセリフも一見支離滅裂だが、まどかのいなくなった世界で、ほむらがまどかにこだわり続けていること、そうである一方それにこだわらない人生もあり得ることをほのめかしていると思う。
そして、『コネクト』が流れる。
第10話のラストの『コネクト』が、悲壮感のある表現であったのと対称的に、
最終話の『コネクト』は、重いながらもカタルシスと爽快感を感じるのは、
新しい世界で、ほむらに開放と自由、
そして何より、「成長していく可能性」があるからだろう。
これで終わればきれいに終わっただろう。
だが、そうはならない。
Always,somewhere,
someone is fighting for you.
---As long as you remember her.
you are not alone.
いつも、どこかで、
誰かがあなたのために戦っている。
ーーー彼女を覚えている限り、
あなたは孤独ではない。
このモノローグの後、
ほむらはいつとも知れぬ時に、どこかもわからない荒野で、
魔獣たちの群れに向かって、
もはや浄化しきれなくなり濁った翼を広げ、
まどかの「がんばって」という声を聞き苦笑とも達観とも取れる、
なんともとれない微笑をし、魔獣たちの攻撃を受け、
魔獣たちに向かって飛び込んでいき、
ソウルジェムを浄化できなくなり、魔女になりまどかに救われるか、
魔獣にやられて死亡するかの死地に飛び込み物語は終わる。
この到底綺麗に終わったとは言えない終わり方は、どういう表現だろうか。
(ここでは『叛逆の物語』のことは考えないものとする。)
これを読み解くキーは、まどかの「がんばって」という声だろう。
これを判断するヒントは第一話の最初にあると思う。
劇場版ではカットされたシーンである。
第一話の冒頭、まどかは単身ワルプルギスの夜と戦うほむらを、インキュベーターから見せられ何らかの願いをし魔法少女になった。
このまどかは地球を滅ぼすであろう魔女となったのは後に解ることだが、
問題は、このまどかがどんな願いで魔法少女になったかということだ。
これは劇中に一切描いていないので想像するしかない。
そうであると同時に、製作者からの「この願いはなんなのか」という問いかけでもあると思う。
筆者だったら「あの女の子を助けたい」と思うだろう。
そしてその祈りが、巡り巡って鹿目まどか自身の、円環の理の力で、
ほむらのピンチに「がんばって」という声になって聞こえたというのが筆者の解釈である。
そう考えると、物理的に「助けたい」というシンプルな願いであるからこそ、ほむらの境遇には、よりハートフルなものである一方。
ほむらの失敗の結果である、円環の理の作用でもある。
この「がんばって」を聞いて謎の微笑をし死地に飛び込んでいったほむらの成長は、
製作者が意図的に曖昧にしていると思う。
ほむらがまどかのいなくなった世界で自分の人生を生き、成長し死地に飛び込んでいったか?
まどかのいなくなった世界での、ほむらの成長というテーマは、重い。
ただ見ているだけでも重さがあるのは解るはずだ。
そこに加え、叙述トリックで隠された部分、
鹿目まどかが成長できず死ぬことさえできなくなったことと、
美樹さやかが残酷に成長して死んでいったこと、
そしてほむら本人が気づいていない暁美ほむらの物語を加えて考えると。
ほむらの成長というテーマは、壮絶という一言では言い表せないくらい、とんでもなく重いものになる。
『叛逆の物語』のことを考えなくても、ほむらがそれらのことをどれだけ解ったかは怪しい。
それでも、まどかとさやかのことを背負ってほむらが生き、死地に飛び込んでいったと言っていいだろう。
まどかとさやかのトリックで隠された部分と、曖昧にされたほむらの成長とを併せて、
視聴者に、「成長」というテーマを突きつけてくる、
この重く強烈なラストこそTV版の真骨頂であり、シリーズの最高到達点だろう。
続く